翌日六十三人を吟味すると皆平常と変わらず
どんな伝承か
翌十三日、六十三人を旅宿に呼び出して吟味すると、皆平常と変わらぬ面持ちで、正月十六日の発病以来の事を尋ねても答えられる者は一人もいなかった。野島惣宰は一同に、間違いの原因は理不尽に長丞を忌み嫌ったことであり、今回の珍事は犬神の仕業ではなく、長丞を毛嫌いした心の隙に悪魔が乗じたのだと諭し、以後は長丞を組合に加えて仲良く交際せよと申しつけた。その後、村民と長丞の和解が成り、再発した十四人も五台山高善院の祈祷で正気に返ったという。
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
二つの怪奇な心霊現象(浅野和三郎・1940年(昭和15年))
『二つの怪奇な心霊現象』は、浅野和三郎が著し、心霊科学研究会が昭和十五年に発行した心霊現象の記録で、昭和二十七年に再版された。前篇は土佐国長岡郡豊永郷岩原村で村人数十人が憑きものに狂乱し、藩の役人が祈禱や鉄砲で鎮めた事件を、嘉永六年に野島通玄が記した記録から紹介する。後篇は山梨県北巨摩郡穂坂村の旧家の娘かね代に先祖横森市兵衛の霊が懸かり、盗まれた不動明王の掛軸が戻った因縁を、著者の調査と甲州訪問記を添えて述べる。