義侠と残忍をあわせ持つ荷馬車挽きの熊
どんな伝承か
荷馬車挽きの熊は、金があれば誰にでも酒を振る舞い、家を建てるのに手が足りない者がいれば材木を運んでやり、刈り遅れて夜に草を刈る者を見れば夜半過ぎまで手伝う、世話好きな男として村に知られていた。二本松の茶店松本屋で、今日は借りて飲む酒だからと人に注がなかったのも、その気性である。一方で、意に染まないことがあると人と違った仕返しをし、坂道で荷馬車の馬がへたばると、頬かむりの手拭で前足二本を縛って歩かせた。学問はなく、新聞が読めるのかとからかわれると力で来いと怒りだしたが、小学校で級長を通す長男には、偉くなるにはうんと勉強しろと言い聞かせていた。
原典より
それだけに意に充たないことでもあると人と違った報復をした。—— 奇談全集 現代篇(田中貢太郎・奇談全集) より引用地図で位置を見る
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
奇談全集 現代篇(田中貢太郎・奇談全集)
『奇談全集 現代篇』は、田中貢太郎が幕末から大正にかけての事件や奇談を読み物に仕立てた作品集である。明治十一年に相模の真土村で起きた松木騒動、大正十五年に千葉の久賀村一帯で起きた鬼熊の事件、香取郡の連続殺人、伊賀上野の破獄、京都の天誅などを、記録や関係者の話をもとに描き、松木騒動には筆者が大正六年に現地を訪ねた補遺を付す。播磨屋橋遺聞のように、筆者自身が創作と断る話も含む。