山越刑事と稲田に転げ落ちての格闘
どんな伝承か
放火と殺しの知らせを受け、向後巡査とともに高津へ駆けつけて熊の仕業と知った山越刑事は、消防手五人を連れて逮捕に向かった。熊の立ち寄りそうな家を当たったあと裏手の道へ出ると、すぐ前にぼんやりと人影が見えた。熊じゃないかと声をかけると、影が動いて刃物が光った。刑事はピストルを撃ったが空弾で、熊の洋剣が何度も閃いた。刑事は傷を負いながらも熊の手元に組みつき、二人は道から稲田へ転げ落ちて、熊は刑事の親指にかみついた。刑事は洋剣をもぎ取って遠くへ投げたが、熊は里道伝いに逃げて丘の上へ消え、足を傷めた刑事はその場で動けなくなった。
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
奇談全集 現代篇(田中貢太郎・奇談全集)
『奇談全集 現代篇』は、田中貢太郎が幕末から大正にかけての事件や奇談を読み物に仕立てた作品集である。明治十一年に相模の真土村で起きた松木騒動、大正十五年に千葉の久賀村一帯で起きた鬼熊の事件、香取郡の連続殺人、伊賀上野の破獄、京都の天誅などを、記録や関係者の話をもとに描き、松木騒動には筆者が大正六年に現地を訪ねた補遺を付す。播磨屋橋遺聞のように、筆者自身が創作と断る話も含む。