狸が祀られて流行神となる土佐の村
どんな伝承か
作者の郷里である土佐の海辺の村には、たびたび『流行神様』が生まれた。前日まで何もなかった野原や畑のあいだに突然小さな祠が建ち、参る人が赤や白の小さな幟を立てる。足の立たなかった人が歩きだした、目の見えない遍路の目が開いた、といった評判が村人の口から口へ伝わっていった。祀られる本尊は、名も知れない古い石塔や石地蔵のこともあったが、いちばん多いのは狸で、村人はどこそこの狸だとその名まで知っていた。狸が神になるのは、村人に何度も憑いた末に、自分を神として祀ればもう人には憑かないと言いだすからで、そうして祠に祀られるのだという。
原典より
その流行神様の本尊は、古い名も知れない石塔であったり石地蔵であったり、狸であったりしたが、中でも多いのは狸であった。—— 日本の怪談(田中貢太郎・河出文庫・1985年(昭和60年)) より引用地図で位置を見る
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
日本の怪談(田中貢太郎・河出文庫・1985年(昭和60年))
『日本の怪談』は、田中貢太郎の怪談を昭和四十五年桃源社刊『日本怪談全集』から抜き出した文庫本で、昭和六十年十二月に河出書房新社から発行された。「宝蔵の短刀」「八人みさきの話」など土佐の城下や村の話をはじめ、江戸・京・吉野などを舞台にした幽霊・狐狸・猿・魔物の話を、会話の多い語り口で収める。二十七篇の後に尾崎秀樹の解説を付し、高知に生まれた作者の生涯と怪談・妖異譚への傾倒をたどっている。