背に負うた女が鬼に変じる夜道
どんな伝承か
久武内蔵助の従弟の五月新三郎が、ある晩、小高坂の吉良親実の邸宅の傍を通ると、十六、七の色の白い女が一人立っていた。秦泉寺の者だが嫁ぎ先で捨てられ、母に一目会おうと逃げてきたが恐ろしくて困っていると言う。新三郎は送ってやろうと申し出、足を痛めたと聞いて背負った。半丁ほど行くと背は大盤石が乗ったように重くなり、振り返ると二本の角のある鬼の顔があった。首筋を掴まれて宙に浮いたが、刀を抜いて払い田の中へ落ちた。夜明け方、一挺の駕籠が来て、中の吉良左京之進に声をかけられると、新三郎はばったり倒れて死んだ。
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
日本の怪談(田中貢太郎・河出文庫・1985年(昭和60年))
『日本の怪談』は、田中貢太郎の怪談を昭和四十五年桃源社刊『日本怪談全集』から抜き出した文庫本で、昭和六十年十二月に河出書房新社から発行された。「宝蔵の短刀」「八人みさきの話」など土佐の城下や村の話をはじめ、江戸・京・吉野などを舞台にした幽霊・狐狸・猿・魔物の話を、会話の多い語り口で収める。二十七篇の後に尾崎秀樹の解説を付し、高知に生まれた作者の生涯と怪談・妖異譚への傾倒をたどっている。