馬を止めた提灯の媼と断崖
どんな伝承か
高知県長岡郡三里村の種崎に中屋という陸軍少佐がいた。日露戦役のある夜、将校斥候に出た少佐は、暗いうえに方角も分からず難渋しながら進んでいたところ、乗っていた馬が突然ぴたりと止まった。前を見るとぽっかり提灯の火が見え、一人の媼が提灯を点けて馬の前を横切って往くところであった。少佐はその辺の者だろうと思って一鞭くれたが、馬は後退りしてどうしても進まない。やむなく一行はよい場所を見つけてそこで一睡りした。翌朝になってみると、一行の前には断崖絶壁があり、その縁には墜落を支えようと踏ん張ったような少佐の乗馬の蹄痕が残っていた。
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
日本怪談実話(田中貢太郎・河出文庫・1938年(昭和13年))
『日本怪談実話』は、田中貢太郎が昭和十三年に著した実話怪談集を河出文庫に収めたものである。明治以降に著者が聞き集めた怪異を報告調の短文で綴り、戦地の霊験や戦死者の知らせ、狐狸・天狗・海坊主、トンネルや自動車に現れる女、幽霊写真、狐狗狸などを扱う。元本は改造社刊の『新怪談集(実話篇)』で、冕言に始まって二百を超える小話を並べ、巻末に川奈まり子の解説を付す。