久松警察署の宿直室に立つ女
どんな伝承か
日本橋の久松警察署では、高等係の宿直室に若い女が夜ごと夢枕へ立つという噂が広まった。発端は転任してきた田中巡査部長で、三晩続けて同じ若い女の夢を見たと同僚に漏らしたところ、自分も見た、こちらも見たと声が上がり大騒ぎになった。関東大震災のとき、この部屋は負傷者の収容にあてられ、息を引き取った若い女もいたので、その霊が礼に訪れるのだと説く者もいた。女は微笑んで消えるといい、寝台の向きを変えても止まなかった。腕自慢の警官たちも気味悪がり、署長の手で祓いを行うことになった。
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
日本怪談実話(田中貢太郎・河出文庫・1938年(昭和13年))
『日本怪談実話』は、田中貢太郎が昭和十三年に著した実話怪談集を河出文庫に収めたものである。明治以降に著者が聞き集めた怪異を報告調の短文で綴り、戦地の霊験や戦死者の知らせ、狐狸・天狗・海坊主、トンネルや自動車に現れる女、幽霊写真、狐狗狸などを扱う。元本は改造社刊の『新怪談集(実話篇)』で、冕言に始まって二百を超える小話を並べ、巻末に川奈まり子の解説を付す。