病室に立って泣いていた神戸の母
どんな伝承か
昭和三十二年の二月、長期の療養を告げられた筆者はお茶の水の病院に入った。個室へ移った日の安静時間、窓は厚いカーテンで閉ざされ、読書もラジオも許されぬ薄暗い部屋で、いつのまにかうとうとしていた。その最中、ベッドの右脇に、神戸にいるはずの母がしょんぼりと立ち、右手で額を押さえてしくしく泣いている。心配しなくてよいと声をかけた自分の声で目が覚め、そこを見ると母の着物で仕立てた丹前が下がっているだけだった。夢かと思い直して再び眠ったが、安静時間が明けるなり妻が駆け込み、母が脳溢血で倒れたと泣き伏した。
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
日本怪談集 幽霊篇(今野圓輔・今野圓輔・日本怪談集・昭和(怪談集成))
日本各地の幽霊・人魂・生霊の実話怪談を十章+幽霊外伝に分類して集成する。