殺した母が夢で迎えに来て自首
どんな伝承か
昭和三年六月二十七日の夕刻、大阪玉造署へ四十くらいの男が母親を殺しましたといって自首して出た。男は東区八丁目東寺町の箪笥仕上職西村金次郎である。大正十年八月二十八日午前二時頃、当時港区九条通りの天理教会所に住んでいた頃、六十二になる実母の中西イワは胃癌で長く床につき、治らぬうえ夫婦が看病と薬代に困るのを見るに忍びず、どうせ死病なら自分の腹を痛めた倅の手で往生したいと、一思いに殺してくれと頼んだ。金次郎は生活難にも追われてその気になり、手拭で咽喉を絞めて殺し、何くわぬ顔で葬式を済ませた。だがその頃になって毎晩のように実母が夢に現れ「お前を迎えに来た」と言うので自首した。
原典より
* 母の変死 (247)* 石地蔵の首を締める (250)* 池の中の足首 (253)* 蟹 (255)* 竹杖に芽を吹く (258)* 掠奪した短刀 (260)* 桐原事件の一挿話 (262…—— 日本怪談実話(田中貢太郎・河出文庫・1938年(昭和13年)) より引用地図で位置を見る
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
日本怪談実話(田中貢太郎・河出文庫・1938年(昭和13年))
『日本怪談実話』は、田中貢太郎が昭和十三年に著した実話怪談集を河出文庫に収めたものである。明治以降に著者が聞き集めた怪異を報告調の短文で綴り、戦地の霊験や戦死者の知らせ、狐狸・天狗・海坊主、トンネルや自動車に現れる女、幽霊写真、狐狗狸などを扱う。元本は改造社刊の『新怪談集(実話篇)』で、冕言に始まって二百を超える小話を並べ、巻末に川奈まり子の解説を付す。