マイクの前で鳴きやまぬ狐
どんな伝承か
狐は昔からこんこんと鳴くものと相場が決まっていたが、本当にこんこんと鳴くのかぎゃんぎゃんと鳴くのか、札幌放送局が狐の本音を放送することになり、柳沢養狐場にマイクを据えた。そこは札幌郊外、藻岩山の西麓で、三方を山に囲まれた谷底の一軒家、まさに妖獣の棲家にふさわしい場所であった。狐は満腹になると寝込み、目覚めたときに鳴く習性があるというが、寝過ごされては困るので発情期を利用することにした。定刻の二時間前、場主の柳沢善作が雌の銀黒狐に細工をして匂いを発散させると、雄狐十二匹が尖った口をそろえてぎゃあんぎゃあんと鳴きだし、二時間鳴きやまなかった。
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
日本怪談実話(田中貢太郎・河出文庫・1938年(昭和13年))
『日本怪談実話』は、田中貢太郎が昭和十三年に著した実話怪談集を河出文庫に収めたものである。明治以降に著者が聞き集めた怪異を報告調の短文で綴り、戦地の霊験や戦死者の知らせ、狐狸・天狗・海坊主、トンネルや自動車に現れる女、幽霊写真、狐狗狸などを扱う。元本は改造社刊の『新怪談集(実話篇)』で、冕言に始まって二百を超える小話を並べ、巻末に川奈まり子の解説を付す。