納戸町の雨戸を叩く亡夫の声
どんな伝承か
震災のあった年の暮れ、安い原稿仕事を探して歩いていた松井は、帰りの電車で腹を押さえた四十がらみの女に席を譲った。女は護国寺の方だと言い、坂を下った家へ招き入れて酒を出す。夫は国学者の山岡寛で、糖尿で目が見えないという。女は松井の左頬の黒子を指し、女難の相があると笑った。松井は翌日から山岡家へ移り、やがて一家は牛込の納戸町へ引き移った。間もなく主人が世を去り、四十九日を過ぎた雨の晩、夫人と枕を並べていると玄関の雨戸が叩かれ、つらい、つらい、と主人の声が響いた。それが四晩続き、松井は夫人と別れた。
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
日本怪談実話(田中貢太郎・河出文庫版・決定版・昭和13年編纂(1938年))
日本怪談実話(田中貢太郎)/幽霊と怪光の実話/怨霊と祟り・因果/死の前兆と怪音/各地の怪異実話