通夜の家へ戻った投身の娘
どんな伝承か
雨の夜の二時過ぎ、麻布へ客を送った帰りに、運転手はいつもの道をとって青山墓地の並木道へ差しかかった。すると墓の陰から若い女が出てきて車をさえぎり、芝の西久保までと言う。気味は悪かったが仕方なく巴町まで走らせると、女は板塀をめぐらした家の前で、ここでいいから待っていて、と言って中へ入った。いつまでも出てこないので訪ねると、家の中は取り込んだ気配がある。四十前後の女に事情を話し、絵羽織を着ていたと伝えると、相手は取り乱して泣き出した。一人娘が前夜に身を投げ、親戚が集まって通夜をしているところだった。
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
日本怪談実話(田中貢太郎・河出文庫・1938年(昭和13年))
『日本怪談実話』は、田中貢太郎が昭和十三年に著した実話怪談集を河出文庫に収めたものである。明治以降に著者が聞き集めた怪異を報告調の短文で綴り、戦地の霊験や戦死者の知らせ、狐狸・天狗・海坊主、トンネルや自動車に現れる女、幽霊写真、狐狗狸などを扱う。元本は改造社刊の『新怪談集(実話篇)』で、冕言に始まって二百を超える小話を並べ、巻末に川奈まり子の解説を付す。