欄間の壁に嵌まった女の顔
どんな伝承か
明治三十年ごろ、空き家を探していた講釈師の坂本中洲は、麻布の飯倉で手ごろな家を見つけた。玄関が長四畳、座敷が八畳、新しいうえに家賃が一円五十銭という破格の安さである。移った三日目の夜半、長四畳の天井で人の歩くような音がし、続いて水の滴る音がした。外は星空で雨漏りの跡もない。物音は毎晩続いた。越して六日目の雨の晩、留守番の妻が戸の開く音に玄関へ出ると誰もおらず、長四畳の壁には血のような黒い染みが、欄間の壁には青白い女の顔が嵌まっていた。前の住人の妻が、その部屋で自ら命を絶っていたと後で分かった。
原典より
* 前妻の怪異 (397)* 血みどろの男の顔 (400)* 投石怪談 (404)* 杖を置いた音 (407)* 夢遊病者 (408)* 庭 (411)* 山根先生の話 (418)* 岩お…—— 日本怪談実話(田中貢太郎・河出文庫版・決定版・昭和13年編纂(1938年)) より引用地図で位置を見る
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
日本怪談実話(田中貢太郎・河出文庫版・決定版・昭和13年編纂(1938年))
日本怪談実話(田中貢太郎)/幽霊と怪光の実話/怨霊と祟り・因果/死の前兆と怪音/各地の怪異実話