神戸の二階で待っていた病人
どんな伝承か
昭和五年二月、筆者は霊媒の三田光一を伴って、麻布の不動銀行頭取牧野元次郎を訪ねた。頭取の次男二郎が重い病に臥せっていたため、心霊治療を頼まれたのである。二十四歳の二郎は前年の夏から肺を病み、主治医も絶望と見ていた。三田は三月にも再び上京して治療にあたったが思わしくなく、二十八日に暇乞いをした。その席で二郎は看護婦を介し、二、三日のうちに楽になるからそのときに頼みたいことがある、と伝えた。三田が神戸の自宅へ帰り着いた二十九日の夜、羽織袴を整えた二郎が二階で待っていた。同じ夜、東京では二郎が息を引き取っていた。
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
心霊と神秘世界(福来友吉・1932年(昭和7年))
『心霊と神秘世界』は、文学博士福来友吉が著し、昭和七年に人文書院から発行された心霊研究と仏教思想の書である。御船千鶴子・長尾夫人・三田光一らの透視と念写をはじめ、霊の幻化、念動、物質化など国内外の心霊現象を実験記録とともに論じ、後半では自我・神秘世界・霊と生命を真言密教や華厳の教えによって説く。全五編からなり、この本文は昭和五十七年に心交社が出した復刻版で、梅原正紀・井村宏次らの「解説研究編」を付している。