救急車の上から宇宙へ昇った母
どんな伝承か
福岡県小郡市の女性は昭和五十一年二月、急性劇症肝炎と急性腎不全を併発して生死の境に引き込まれた。闇の中で体からすっと抜け出すと、走る救急車の担架に横たわる自分と、頭を抱えてうずくまる夫の背中が下に見えた。病院では枕元を囲む夫の上司や同僚、一歳四か月の長女と生後二か月の次女の顔を見下ろして漂い、自分は死んだのだと悟って深い悲しみに包まれ、この子らのもとへ戻りたいと痛切に願った。すると宇宙の奥へ引き込まれ、遠ざかる地球が闇の中で宝石のように輝いて見えた。そこへ姿の見えない懐かしい弟の声が、どこへ行くのと呼びかけたという。
原典より
突然、私は宇宙の奥へと引きこまれてゆくのを覚えた。—— 臨死体験(立花隆)(立花隆・臨死体験・ノンフィクション) より引用地図で位置を見る
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
臨死体験(立花隆)(立花隆・臨死体験・ノンフィクション)
『臨死体験(立花隆)』は、立花隆が著したノンフィクションである。一九九一年三月放送のNHKスペシャルのための取材を出発点に、日本と欧米の体験者の証言、キュブラー・ロスやムーディら研究者への聞き取り、「文藝春秋」連載中に寄せられた体験談を収める。体外離脱、光の体験、文化による体験の差、感覚遮断や脳の仕組みを章ごとに論じ、末尾で現実体験説と脳内現象説を比べたうえで、著者は基本的に脳内現象説に立つと述べる。