誰も呼ばなかった声と浮き上がる体
どんな伝承か
名古屋の酒井和子さんの体験は典型に近いが、二つの点で平均的な例と違うとされる。一つは戻るきっかけで、川や山の手前で後ろから呼ばれて引き返す例は多いものの、普通は現実に誰かが呼んでいた。酒井さんは目覚めてすぐ父に確かめ、呼んでいないと言われており、現実の声に誘われた一瞬の夢だとする説への反証になる。もう一つは、一度地面に引きずり込まれてから魂が抜け出した点で、多くは気づくと天井から自分を見ている。長野県下諏訪町の小口惣三郎さんは一九三三年、膿胸の手術後に衰弱し、必死に抑えても天井近くまで浮き上がったという。
原典より
しかし、酒井さんの場合は、目をさましてすぐに父親に自分を呼んだかと確かめ、呼んでいないという答えを得ている。—— 臨死体験(立花隆)(立花隆・臨死体験・ノンフィクション) より引用地図で位置を見る
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
臨死体験(立花隆)(立花隆・臨死体験・ノンフィクション)
『臨死体験(立花隆)』は、立花隆が著したノンフィクションである。一九九一年三月放送のNHKスペシャルのための取材を出発点に、日本と欧米の体験者の証言、キュブラー・ロスやムーディら研究者への聞き取り、「文藝春秋」連載中に寄せられた体験談を収める。体外離脱、光の体験、文化による体験の差、感覚遮断や脳の仕組みを章ごとに論じ、末尾で現実体験説と脳内現象説を比べたうえで、著者は基本的に脳内現象説に立つと述べる。