野宮に立ち戻る御息所の魂
どんな伝承か
能の「野宮」は、六条御息所が光源氏と最後の恋の対面をした晩秋の一日に、御息所の生涯の重みのすべてをかけた曲とされる。御息所の魂は、毎年その日がめぐって来ると懐かしい野宮の地へ立ち戻り、恋の思い出にひたるのだという。生きているあいだは男の愛にひたすら身をゆだねることのできなかった御息所が、死を経て夢幻能のシテとなり、ようやくその愛を全うする姿として読まれている。
原典より
彼女の魂は、その日になると懐しい野宮の地に立ちもどって、恋の思い出にふけるのである。—— 日本の幽霊たち ― 怨念の系譜(阿部正路) より引用地図で位置を見る
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
日本の幽霊たち ― 怨念の系譜(阿部正路)
『日本の幽霊たち――怨念の系譜』は、阿部正路が書きおろした日本文学の幽霊論で、刊行は日貿出版社が手がけた。『竹取物語』『源氏物語』『平家物語』などの物語、『日本霊異記』から『遠野物語』『聴耳草紙』に至る説話、能と歌舞伎、さらに三遊亭円朝・泉鏡花・森鴎外・小泉八雲らの近代の作品に現れる幽霊をたどり、怨念の系譜として読み解く。第一章で幽霊の時・季節・姿・場・目的を論じ、終章で稲生屋敷の物怪や百鬼夜行など幽霊の周辺に及ぶ。