吉備津の釜と軒に残った一房の髪
どんな伝承か
上田秋成『雨月物語』の「吉備津の釜」。吉備の国賀夜郡庭妹の百姓井沢庄太郎の息子正太郎は酒と色に溺れる男で、吉備津神社の神主香央造酒の娘磯良と結婚させられた。神社の御釜祓は、釜の湯の鳴り方で吉凶を占う神事である。正太郎は鞆の津の遊女袖に入れあげ、尽くした磯良を裏切って逃げ、磯良は病んで死ぬ。袖も物の怪に取り憑かれて死んだ。正太郎は青ざめた磯良の霊に出会い、陰陽師の教えで四十二日の物忌みに籠ったが、毎夜恐ろしい声が家を巡る。最後の明け方、呼ぶ声に戸を開けかけた途端に姿は消え、壁に流れる血と軒先の髻だけが残されていた。
原典より
明けたる戸腋の壁に遅くしき血灌ぎ流て地につたふ。—— 日本の幽霊たち ― 怨念の系譜(阿部正路) より引用地図で位置を見る
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
日本の幽霊たち ― 怨念の系譜(阿部正路)
『日本の幽霊たち――怨念の系譜』は、阿部正路が書きおろした日本文学の幽霊論で、刊行は日貿出版社が手がけた。『竹取物語』『源氏物語』『平家物語』などの物語、『日本霊異記』から『遠野物語』『聴耳草紙』に至る説話、能と歌舞伎、さらに三遊亭円朝・泉鏡花・森鴎外・小泉八雲らの近代の作品に現れる幽霊をたどり、怨念の系譜として読み解く。第一章で幽霊の時・季節・姿・場・目的を論じ、終章で稲生屋敷の物怪や百鬼夜行など幽霊の周辺に及ぶ。