正太郎を追いつめた磯良の怨霊
どんな伝承か
雨月物語の話である。吉備津の神主香央造酒の娘磯良は、怠け者の正太郎に嫁ぐことになり、吉備津の社の釜で湯を立てて吉凶を占うと、釜は音一つ立てなかった。それでも嫁いだ磯良は夫に尽くしたが、正太郎は鞆の津の遊女そでに入れあげ、磯良をだまして金を作らせてそでと出奔する。磯良は病に倒れた。二人が身を寄せた印南郡荒井の里でそでは物の怪に憑かれたように死に、墓参りの正太郎は女に誘われた家で変わり果てた磯良に会う。陰陽師の教えで四十二日の物忌みをしたが、最後の夜に戸を開けた正太郎は消え、壁の血と軒の髻だけが残ったという。
原典より
まことにふしぎな釜で、これで湯を沸かすと、牛のほえるように釜が鳴りさわぐ時は吉事があり、何の音もしない時は凶事がおこると云われていた。—— 日本の妖怪伝説(小笠好恵・1966年(昭和41年)) より引用地図で位置を見る
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
日本の妖怪伝説(小笠好恵・1966年(昭和41年))
『日本の妖怪伝説』は、小笠好恵が各地に伝わる奇談・怪談を読み物にまとめた伝説集で、序は昭和四十一年五月付である。浅茅が原の一つ家、四谷怪談、九尾の狐、安達が原の黒塚、道成寺、鍋島の化け猫など、岩手から熊本までの四十五話を、伝えられた形をなるべく崩さずに書き直し、おおむね東から西へ並べる。雨月物語や小泉八雲など書物に拠る話のほか近年の体験談も混じり、一部の話の末にはゆかりの寺社へ行く「順路」を付ける。