営門に響いた亡霊の足音
どんな伝承か
八甲田連峰を背に、弘前市の郊外には旧軍の軍人たちの墓が整然と並んでいる。中央にひときわ大きく立つのは、無能で横暴な上官だったと伝えられる山口大隊長の墓で、神成大尉の墓は一段小さく右に控える。日露戦争に備えた雪中行軍の人体実験で、青森歩兵第五聯隊の兵たちは吹雪の八甲田山中で次々に凍りついて死んだ。死んでいく順も葬られ方も階級の序列に従い、墓石に刻まれているのは死んだ日ではなく死体が見つかった日である。遭難の直後には、第五聯隊の営門にしばしば亡霊の足音が響き、衛兵を恐怖のどん底に叩き込んだという怪談が残っていた。
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
日本の幽霊たち ― 怨念の系譜(阿部正路)
『日本の幽霊たち――怨念の系譜』は、阿部正路が著した日本文学の幽霊論である。『竹取物語』『源氏物語』『平家物語』などの物語、『今昔物語集』から『遠野物語』『聴耳草紙』に至る説話、能と歌舞伎、さらに三遊亭円朝・泉鏡花・森鴎外・小泉八雲らの近代の作品に現れる幽霊をたどり、怨念の系譜として読み解く。第一章で幽霊の時・季節・姿・場・目的を論じたのち、物語・説話・能と歌舞伎・近代の章を立て、終章で稲生屋敷の物怪や百鬼夜行など幽霊の周辺に及ぶ。