福原の清盛を覗いた一間に余る大顔
どんな伝承か
清盛の執念が実って福原へ都が移されたのち、置き去りにされた平安京は荒れるにまかせた。八月十日過ぎ、旧都の月に心を引かれて福原から上洛した徳大寺実定が見たのは、荒れ果てた家々と、門前に深く茂る草のなかで恨むように鳴く虫の声だった。一方、福原にいる平家の人々の夢には、さまざまな変化のものが現れる。あるときは一間に収まりきらないほど大きな顔が清盛の寝所を覗いておびやかし、巨大な天狗が発するらしい笑い声が続くなど、物怪の沙汰が絶え間なく起こった。『平家物語』は、一門にもはや救いのないことをこうして語っている。
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
日本の幽霊たち ― 怨念の系譜(阿部正路)
『日本の幽霊たち――怨念の系譜』は、阿部正路が書きおろした日本文学の幽霊論で、刊行は日貿出版社が手がけた。『竹取物語』『源氏物語』『平家物語』などの物語、『日本霊異記』から『遠野物語』『聴耳草紙』に至る説話、能と歌舞伎、さらに三遊亭円朝・泉鏡花・森鴎外・小泉八雲らの近代の作品に現れる幽霊をたどり、怨念の系譜として読み解く。第一章で幽霊の時・季節・姿・場・目的を論じ、終章で稲生屋敷の物怪や百鬼夜行など幽霊の周辺に及ぶ。