腹の子が父に告げた山婆の惨劇
どんな伝承か
『聽耳草紙』は、懐妊して腹の大きい女房を山婆が取って食べてしまった話も伝えている。帰宅した亭主は、留守居のはずの女房がいないのを不思議に思いながら火を焚きつけ、火を吹いていると、テデなやアと言って足をテラリとこするものがあった。あたりを見まわすと、赤子の左手が肘からもげて転がっている。血がついているのでさてはと思い、寝床へ行ってみると、女房は食われてそこらじゅう血だらけであった。血痕の跡をたどって行くと、床の間の棚の上に山婆が上がっていて、口にはべったり血を塗っていた。亭主はいきなり木割りでその山婆を斬り殺した。
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
日本の幽霊たち ― 怨念の系譜(阿部正路)
『日本の幽霊たち――怨念の系譜』は、阿部正路が著した日本文学の幽霊論である。『竹取物語』『源氏物語』『平家物語』などの物語、『今昔物語集』から『遠野物語』『聴耳草紙』に至る説話、能と歌舞伎、さらに三遊亭円朝・泉鏡花・森鴎外・小泉八雲らの近代の作品に現れる幽霊をたどり、怨念の系譜として読み解く。第一章で幽霊の時・季節・姿・場・目的を論じたのち、物語・説話・能と歌舞伎・近代の章を立て、終章で稲生屋敷の物怪や百鬼夜行など幽霊の周辺に及ぶ。