吹雪の中に現れた偽の救助隊
どんな伝承か
新田次郎の小説は、八甲田山で吹雪に閉ざされた雪中行軍隊に起きた不思議な幻を描いている。降りしきる雪に目を据えていると、山の斜面に二列に並んだ木々が動き出し、一個小隊ほどの救援の兵が近づいてくるように見えたという。倉田大尉は全身の血が凍る思いをし、生き残った兵の半分が一度に正気を失ったのかと感じた。新田はこれを集団の幻覚と呼ぶ。幻を払おうとラッパを吹かせたが、鳴ったのは地の底から呻くような不気味な低い音ばかりだったという。
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
日本の幽霊たち ― 怨念の系譜(阿部正路)
『日本の幽霊たち――怨念の系譜』は、阿部正路が書きおろした日本文学の幽霊論で、刊行は日貿出版社が手がけた。『竹取物語』『源氏物語』『平家物語』などの物語、『日本霊異記』から『遠野物語』『聴耳草紙』に至る説話、能と歌舞伎、さらに三遊亭円朝・泉鏡花・森鴎外・小泉八雲らの近代の作品に現れる幽霊をたどり、怨念の系譜として読み解く。第一章で幽霊の時・季節・姿・場・目的を論じ、終章で稲生屋敷の物怪や百鬼夜行など幽霊の周辺に及ぶ。