三年待たされて朽ちた古土蔵の材木
どんな伝承か
方位の迷信の害を示す例として著者が挙げる話。東京の本郷区に、ひどく迷信深い商人がいた。ある年、近所で古い土蔵が売りに出たので、わずか数百円で買い取って取り崩してみると、材木も石材も今では手に入らないほどの上物だった。主人は大喜びで自分の屋敷に建て直そうとし、まず方位を専門にする占い師に尋ねた。すると、三年たってから建てなければ必ず戸主の身に災いが降りかかると言われ、やむなく三年間そのまま放っておいた。期限が過ぎていざ建てようとすると、雨ざらしの材木はほとんど朽ちて使えず、計画は水の泡となり、数百円を迷信に捨てる結果になったという。
原典より
東京の本郷区内に住する商業家にして、すこぶる迷信の強きものがあった。—— 迷信の諸相・宗教の真相(井上円了・1916年(大正5年)) より引用地図で位置を見る
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
迷信の諸相・宗教の真相(井上円了・1916年(大正5年))
『迷信の諸相・宗教の真相』は、井上円了が大正五年に刊行した『迷信と宗教』を、新しい題を付け現代の表記に改めて翻刻した本である。琉球・伊豆七島・壱岐対馬から北海道まで、著者が各地を巡回して見聞した犬神・人狐・河童・狐憑きなどの迷信と、怪火・天狗・幽霊・鬼門・卜筮・家相・禁厭など全国共通の迷信を挙げる。迷信の利害と原因を論じたのち宗教の真相を説き、余論に妖怪学の短編、附録に幽霊鬼神と霊魂不滅をめぐる論を収める。