夢告げを装った阿弥陀像の掘り出し
どんな伝承か
維新前のこと、山城の国伏見町に市郎兵衛という者がいた。深く仏教に帰依し、蚤や蚊さえ殺さぬほどの信者で、近所からは市郎兵衛殿とは呼ばれず仏様と名づけられていた。その市郎兵衛が、ある夜、隣家の門口の土中に埋もれている阿弥陀を掘り出してくれという夢のお告げを受けたという。隣家の主人は信じなかったが、同じ夢が七晩続いたので承知して掘ったところ、五尺までは何も出ず、さらに一尺余掘り下げると銅の仏像が出て大評判となった。のちに役人が両人の挙動を怪しんで吟味すると、前年に相談の上で仏像を埋め、夢に託して利を得ようとした奸計だと白状したという。
原典より
その後、地頭の役人が右両人の挙動に疑わしきところあるを怪み、これを捕えて吟味せしに、…—— 迷信の諸相・宗教の真相(井上円了・1916年(大正5年)) より引用地図で位置を見る
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
迷信の諸相・宗教の真相(井上円了・1916年(大正5年))
『迷信の諸相・宗教の真相』は、井上円了が大正五年に刊行した『迷信と宗教』を、新しい題を付け現代の表記に改めて翻刻した本である。琉球・伊豆七島・壱岐対馬から北海道まで、著者が各地を巡回して見聞した犬神・人狐・河童・狐憑きなどの迷信と、怪火・天狗・幽霊・鬼門・卜筮・家相・禁厭など全国共通の迷信を挙げる。迷信の利害と原因を論じたのち宗教の真相を説き、余論に妖怪学の短編、附録に幽霊鬼神と霊魂不滅をめぐる論を収める。