天狗寺の住職と鐘楼の屋根
どんな伝承か
著者がかつて徳島県小松島町を訪れた際、その地に天狗寺があると聞いた。今より数十年前、その寺の住職が夜半すぎに起き出して、境内の一隅に立つ鐘楼の屋根の上に上っていた。家内の者が翌朝になって初めて気づき、大騒ぎして住職を屋根から下ろしたが、本人はどうやってそこへ上ったか全く覚えがなかった。この出来事から住職は天狗に連れ出されたと評判になったが、著者はこれを学理で考えれば睡遊の一種であろうという。鐘楼の屋根は梯子なしには上れないが、傍の樹木の枝を伝えば上れるので、夢中でその方法を取ったに相違ないとしている。
原典より
今より数十年前、その寺の住職が夜半すぎに起き出して境内の一隅に立っている鐘楼の屋根の上にあがっていた。—— 迷信の諸相・宗教の真相(井上円了・1916年(大正5年)) より引用地図で位置を見る
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
迷信の諸相・宗教の真相(井上円了・1916年(大正5年))
『迷信の諸相・宗教の真相』は、井上円了が大正五年に刊行した『迷信と宗教』を、新しい題を付け現代の表記に改めて翻刻した本である。琉球・伊豆七島・壱岐対馬から北海道まで、著者が各地を巡回して見聞した犬神・人狐・河童・狐憑きなどの迷信と、怪火・天狗・幽霊・鬼門・卜筮・家相・禁厭など全国共通の迷信を挙げる。迷信の利害と原因を論じたのち宗教の真相を説き、余論に妖怪学の短編、附録に幽霊鬼神と霊魂不滅をめぐる論を収める。