身内でない巡査にも流れた溺死者の鼻血
どんな伝承か
溺れ死んだ者を岸に上げて寝かせておくと、身内が訪ねて来たときに鼻から血を流して無言で応える――こうした話はどこでも語られ、死者の霊のしわざと信じる人が多い。著者はこれを体の仕組みで説く。水の中でもがくうちに鼻の奥の血管が破れて血がたまるので、誰が動かしても流れ出るはずなのに、身内が来るまでは誰も触らないだけだという。その証拠に、佐渡の小木の港で溺死者を浜に寝かせ、親族へ知らせを出したがまだ着かないうちに、検屍に来た巡査が体を起こさせたところ鼻から血が流れた話を挙げる。その巡査は死者と縁もゆかりもない人だったという。
原典より
しかるにその巡査は全く溺死人とは親戚の関係なき人であったそうだ。—— 迷信の諸相・宗教の真相(井上円了・1916年(大正5年)) より引用地図で位置を見る
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
迷信の諸相・宗教の真相(井上円了・1916年(大正5年))
『迷信の諸相・宗教の真相』は、井上円了が大正五年に刊行した『迷信と宗教』を、新しい題を付け現代の表記に改めて翻刻した本である。琉球・伊豆七島・壱岐対馬から北海道まで、著者が各地を巡回して見聞した犬神・人狐・河童・狐憑きなどの迷信と、怪火・天狗・幽霊・鬼門・卜筮・家相・禁厭など全国共通の迷信を挙げる。迷信の利害と原因を論じたのち宗教の真相を説き、余論に妖怪学の短編、附録に幽霊鬼神と霊魂不滅をめぐる論を収める。