裏口から来る荒神札の押し売り
どんな伝承か
年の暮れになると、細長い紙をおしいただくようにして家々を回り、売り歩く者がいた。一昨年の暮れには裏口から入って来て、荒神様の札だから竈の壁に貼れと言い、聞き取れない早口で一分ばかり唱えたあと、祓いをしておいたから札と合わせて五〇円だと言う。主婦はあっけにとられて銭入れから金を出したが、相手は礼も言わずに去った。翌年の暮れ、二〇日を過ぎてまた同じ男が現れたので断ると、竈のない家はないだろう、災難よけだ、断れば不幸が起きる、鼻紙にしてもよいではないかと食い下がり、最後は来年も貧乏するかと捨てぜりふを残して出て行った。下関市彦島老町の主婦の投書である。
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
現代の迷信(今野圓輔・現代教養文庫・1961年(昭和36年))
『現代の迷信』は、今野圓輔が昭和三十六年に著した、現代の俗信を一般の読者に向けて説いた読み物である。昭和三十年代の新聞・雑誌の報道や聞き書きを主な材料に、縁起かつぎ、前兆・占い・禁忌・まじない・願掛け、憑きもの落としの殺人や新興宗教の騒ぎまでを全国から拾い集めている。「現状」「過誤と真実」「その背景」「迷信論」の四部から成り、巻末に読者の問いに答える迷信身の上相談を付ける。