身投げした妻と節句の薄餅
どんな伝承か
ある若夫婦の夫は、妻の織る曼陀羅を遠い町へ売りに出て、たびたびよその土地に長く泊まっていた。留守のあいだ、美しい妻に土地の男たちが言い寄ったが、妻は相手にしなかった。ある悪い男が、夫は他国で妾を囲っているから帰らないのだと吹き込むと、妻はそれを真に受け、泣きながら近くの川に身を投げた。便りに返事がないのを怪しんで夫が戻ると、妻の亡骸がまだ水に浮かんでいた。夫は嘆きのあまりその肉を薄の葉に包んで食べ、それが五月五日で節句の薄餅の始まりとなり、筋は七月七日に素麺にして食べたという。そのため五月は機を織るのを忌むと伝える。
原典より
それを聴いた妻は女心の一途にさうかと思つて泣きながら、近くの川へ身を投げて死んでしまった。—— 佐々木喜善全集 1(佐々木喜善・佐々木喜善全集・1986年(昭和61年)) より引用地図で位置を見る
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
佐々木喜善全集 1(佐々木喜善・佐々木喜善全集・1986年(昭和61年))
『佐々木喜善全集 1』は、佐々木喜善の著作を遠野市立博物館が編集・発行し、昭和六十一年に刊行した全集の第一巻である。岩手県の遠野・江刺・紫波・岩手などで聞き集めたザシキワラシの話、昔話、伝説を、村の古老や知友からの聞き書きと手紙による報告をもとに収める。「奥州のザシキワラシの話」「江刺郡昔話」「紫波郡昔話」「東奥異聞」「老媼夜譚」「聴耳草紙」に小篇を加えて並べ、巻末に遠野市教育長の跋と奥付を置く。