本所の別荘に響く鼓の怪音
どんな伝承か
松浦静山は『甲子夜話』のなかで、自分の別荘が本所にあり、夜になるとときとして遠方に鼓の音が聞こえることがあると記している。音をしるべに行ってみるが、どうしても場所が分からない。下屋敷では辰巳の方角にあたる遠方から響いてくることがあった。ある年の夏七月八日の夜、屋敷の南方に聞こえたのが急に近くなり、屋敷の内部で響くようであった。慌てて行ってみると、今度は未申の方へ遠ざかった。静山は机に向かっていたが腰元たちは恐れて騒いだ。近くの屋敷で鼓を打つ者もいないという。音は裏の破れた太鼓のようで、二つの拍子が高くなったり低くなったりして聞こえた。大勢が聞いたため、インチキと思わぬ人が多くなった。
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
妖怪の民俗学――日本の見えない空間(宮田登・宮田登・民俗学・1985年(昭和60年))
『妖怪の民俗学――日本の見えない空間』は、宮田登が一九八五年(昭和六十年)に著した、妖怪の現れる場所を論じた民俗学の書である。柳田国男と井上円了の妖怪論、幽霊と妖怪の違い、口裂け女と産女、皿屋敷、化物屋敷と下女、辻・橋・境の怪異、怪光と怪音、七不思議、通り悪魔と髪切りを、古文献や新聞記事、各地の伝承から読み解く。四章から成り、都市の空間に妖怪が現れる仕組みを軸に据える。