雨の番町馬場にうずくまる女の影
どんな伝承か
『耳袋』に「番町にて奇物に逢ふ事」として載る。著者の一族の牛奥氏が壮年のころ、相番から急用を知らされ、秋の夜、風雨の強いなかを侍一人を連れて番町馬場の近所を通った。往来も絶えるほどの大雨のなか、道の側に女と見えるものがうずくまっていた。合羽のようなものを着て傘笠の類もなく、確かに女とも見えない。行き過ぎたあと、提灯を持った足軽体の者二人が来たのでその後について引き返して見たが、初めに見た所には何もない。四方の開けた道でどこへ行きようもなかった。牛奥氏は帰宅する頃から寒気がして翌日から二十日ほど熱を病み、連れの侍も同じく患ったという。
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
科学的教養(小泉丹・小泉丹・科学論・1948年(昭和23年))
『科学的教養』は、小泉丹が昭和二十三年に春秋社から刊行した、科学的なものの見方を説く評論である。精確さ・合理性・実証の面から科学的と非科学的の違いを論じ、河童の記録や呪いの効き目、『耳袋』の怪異談、狐憑き、幽霊・化物屋敷、人魂・鬼火・怪火を例に、日本人のものの考え方を検討する。昭和十七年に書いた前版を戦後に改稿したもので、序と起序に続く七章から成り、旧稿の終わりの二章を除いたと序に記す。