国泰寺の蚊帳に座る透けた女
どんな伝承か
明治二十七年の夏、本願寺派の女説教師松下政子は京都から広島へ行き、国泰寺に泊まって説教をした。最初の夜、蚊帳の中で付き添いの女中と並んで休んでいると、二人の間に三十歳ほどの丸髷の女が、うつむいて思い悩むように座っていた。よく見るとその体はガラスのように透け、蚊帳の外の襖の模様が見えた。政子が大声で人を呼ぶと、隣で協議していた僧たちが駆けつけた。その座敷は数日前に住職の妻が病死した部屋で、姿も妻によく似ていたため、その霊だということになった。
原典より
オヤッと驚いてよく見ると、その婦人の體は硝子のやうに透き通つてゐて、蚊帳の外の襖の模様が見へてゐた。—— 心霊不滅(岡田建文・岡田建文・心霊研究・1940年(昭和15年)) より引用地図で位置を見る
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
心霊不滅(岡田建文・岡田建文・心霊研究・1940年(昭和15年))
『心霊不滅』は、岡田建文が著し、昭和十五年に大阪の国民書院が発行した心霊研究書である。人の心霊は肉体の死後も存続するという立場から、神道の神霊の垂示を引きつつ、心霊の本質と「化精」、遠感と魂の遊離、生霊、二重体、交霊術と霊媒、霊感筆記、幽霊写真などの物理現象、幽霊の出現を論じる。序説と七章からなり、第三・四・五・七章に「例一」「例二」と番号を付けた事例を並べ、今昔物語の説話、江戸から昭和の国内の見聞、欧米の報告を挙げる。