人の言葉で口をきいた旗本の飼猫
どんな伝承か
天保六年の秋、江戸の牛込榎町に住む旗本の羽鳥氏の家で、長年飼っている白黒ぶちの雄猫が、縁側で人の言葉で「来たか」と言うと、隣家の猫が来てニャーウと答えた。羽鳥氏は障子越しにそれを聞いたが、おおらかな人で誰にも話さずにいた。ある日、出入りの町人が訪ねて来たとき、その者のそばで猫がニャアと鳴くと、すぐ近くの部屋の縁側で「また来たな」と言う声がした。誰もいないはずなので障子を開けると飼い猫がいた。猫が言ったのだと驚いて主人に告げると、主人は少しも驚かず、この間も猫が物を言うのを聞いたと澄ましていたという。この猫は一年ほどのちに老いて死んだ。
原典より
天保六年の秋のこと、江戸の牛込榎町に住む旗本侍の羽鳥氏方で、年久しく飼うてゐる白黒ぶちの雄猫が、縁側に居て、人語で『来たか』と言つたら、隣家の猫が来てニャーウと答へた。—— 動物界霊異誌(岡田建文・岡田建文・心霊研究・1927年(昭和2年)) より引用地図で位置を見る
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
動物界霊異誌(岡田建文・岡田建文・心霊研究・1927年(昭和2年))
『動物界霊異誌』は、岡田建文(蒼溟)が昭和二年に著し、郷土研究社から出した動物怪異の記録集である。二十余年にわたって集めた体験や同志の報告から、動物にまつわる怪異の事例を選び、山陰地方を中心とする明治・大正の見聞と、近世の随筆に見える記事を収める。蝦蟇・猫・河童・狐・狸と貉・外道(人狐)・蛇などの動物ごとに、解説・事例・古人の記述の順に並べ、心霊の立場からの考察を加える。