屋根の山猫に眠らされた猟師の家族
どんな伝承か
明治初年、石見国安濃郡大田町の長谷の奥、虚空蔵という屋号の家がまだ一軒しかなかった頃の話。猟を生業とする主人が夜の山道を帰ってくると、わが家の屋根のあたりに赤い星のような光が二つ見えた。近づくと小犬ほどの獣が目を光らせてうずくまっており、撃つと手応えがあった。ところが戸口で呼んでも返事がなく、覗くと囲炉裏端で家族が死人のように倒れていた。揺り起こして皆を正気づかせたが、十二歳の息子だけは冷たくなっており、医者も間に合わなかった。屋根には裏山へ続く血の跡があった。家族を眠らせたのは山猫で、その魔気に息子が精気を吸われたのだと解された。
原典より
或日、夜に入り數里の山路を辿って歸り、住居の谷間にさしか入ると、夜闇の裡に我家の屋上と見ゆる邊に、赤色の星の如き二個の怪光のあるのが望み見られた。—— 動物界霊異誌(岡田建文・岡田建文・心霊研究・1927年(昭和2年)) より引用地図で位置を見る
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
動物界霊異誌(岡田建文・岡田建文・心霊研究・1927年(昭和2年))
『動物界霊異誌』は、岡田建文(蒼溟)が昭和二年に著し、郷土研究社から出した動物怪異の記録集である。二十余年にわたって集めた体験や同志の報告から、動物にまつわる怪異の事例を選び、山陰地方を中心とする明治・大正の見聞と、近世の随筆に見える記事を収める。蝦蟇・猫・河童・狐・狸と貉・外道(人狐)・蛇などの動物ごとに、解説・事例・古人の記述の順に並べ、心霊の立場からの考察を加える。