袖口から白い手が伸びる古着の小袖
どんな伝承か
慶長のころ、京都の知恩院前に住む松屋七右衛門が、一人娘のために古着屋から上等の小袖を買い与えた。ところが娘はそれを着てから具合が悪くなり、病みついてしまう。ある日七右衛門が外から戻ると、青ざめた女がその小袖を着て立っており、顔を合わせたとたんに消えた。箪笥を開けると小袖は畳まれたまま入っている。気味が悪いので売ろうと衣桁に掛けると、両の袖口から白い女の手がすっと伸びてきた。皆で調べると、肩から袈裟がけに斬られた跡を花模様で巧みに縫い隠してあった。斬られた女の着物だろうと寺に納めて供養すると、娘の病も治ったという。
原典より
慶長のころ(一五九六〜一六一五)に京都の知恩院前に住んでいた松屋七右衛門という人が、一人娘のために古着屋から上等の小袖を買ってやった。—— 暮しの中の妖怪たち(岩井宏実・岩井宏実・民俗学・1986年(昭和61年)) より引用地図で位置を見る
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
暮しの中の妖怪たち(岩井宏実・岩井宏実・民俗学・1986年(昭和61年))
『暮しの中の妖怪たち』は、岩井宏實が昭和六十一年に著した妖怪の概説書である。鬼・天狗・河童から山姥、産女、雪女、怪火、ザシキワラシ、化け猫、狐狸、幽霊まで、各地の伝承や古典・絵画に見える妖怪を一つずつ取り上げ、その姿と仕業を説く。第I章で個々の妖怪を紹介し、第II章で妖怪の性格、出現の空間と時、正体を論じ、巻末に著者が資料とした妖怪の本の一覧とあとがきを置く。