手水鉢から毛深い両手が出る京の家
どんな伝承か
南川士長の『閑散余録』に載る京都の化物屋敷の話。京都に、家賃をどれほど安くしても五日か十日で必ず化物が出て、住む人が皆逃げ出してしまう家があった。そこへ、今の世に化物などいるものかと意気込む豪胆な書生が住みついた。二、三か月は何事もなかったので、書生は自分のような者には妖怪も恐れて出ないのだと得意になり、すっかり気がゆるんだ。ある朝早く手水鉢に向かうと、鉢の中から毛むくじゃらで肥えた太い両手がにゅっと現れ、さすがの書生も恐ろしくなって引っ越した。その後、三宅丹治という者が移り住んだが、丹治がいる間は何も起こらなかったという。
原典より
すると或る日のこと、朝早く起きて、手水鉢にむかったとたん、鉢の中から、毛だらけで肥え太った、たくましい両手が突然現われた。—— 井上円了 妖怪学講義(井上円了 著・平野威馬雄 編) より引用地図で位置を見る
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
井上円了 妖怪学講義(井上円了 著・平野威馬雄 編)
『井上円了 妖怪学講義』は、明治期に哲学館で講じられた井上円了の『妖怪学講義』から要所を選び、平野威馬雄が現代の文章に改めて編んだ抄録である。狐憑きや化物屋敷、怪火、幽霊、コックリなどを題材に、円了が古書から抜き出した記事、各地から寄せられた報告、円了自身の現地での調べを収める。原著の八部門のうち理学・心理学・宗教学・雑の四部門を章に立て、序で研究の経緯と分類を、結びで編者の見方を述べる。