法華経を聴いた乙寺の猿
どんな伝承か
『古事談』巻一に見える話。越後国の乙寺に法華経を篤く信じる住職がおり、二匹の猿がやって来て熱心に読経を聞いていた。僧が写経でもして仏に捧げるつもりかと問うと、猿は手を合わせて礼拝した。数日後には数百匹の猿が楮の木を背負って集まり、僧はそれで紙をすいて写経を始め、猿たちは毎日木の実を運んできた。ところが法華経の第五巻まで来たところで猿はぱったり来なくなる。僧が山を探し回ると、山の奥で山芋を掘った穴に頭から落ちて死んでいる猿を見つけ、哀れんで葬り、念仏を唱えて弔ったという。
原典より
かくて、法華経第五巻に至る時、この猿共、それっきり来なくなった。—— 井上円了 妖怪学講義(井上円了 著・平野威馬雄 編) より引用地図で位置を見る
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
井上円了 妖怪学講義(井上円了 著・平野威馬雄 編)
『井上円了 妖怪学講義』は、明治期に哲学館で講じられた井上円了の『妖怪学講義』から要所を選び、平野威馬雄が現代の文章に改めて編んだ抄録である。狐憑きや化物屋敷、怪火、幽霊、コックリなどを題材に、円了が古書から抜き出した記事、各地から寄せられた報告、円了自身の現地での調べを収める。原著の八部門のうち理学・心理学・宗教学・雑の四部門を章に立て、序で研究の経緯と分類を、結びで編者の見方を述べる。