津峰神社へ運ぶ鯛を食った老狸
どんな伝承か
阿波の那賀郡富岡には津峰神社があり、祠は山の上にあって麓からおよそ半里の道のりである。ある日、近くの村の者数人が用事で酒樽と大きな鯛を数尾担ぎ、夕暮れにこの山を登っていった。途中の茶店で一休みし、持ってきた鯛を改めてみると、頭だけが残って身はすっかり食いちぎられていた。これも老いた狸の仕業だと分かったという。四国では狐のかわりに狸の怪が多いとして、名頭村の農家の怪事に続けて挙げられた例である。
原典より
中途に茶店があり、そこで一休みし、もってきた鯛を検べたところ、頭だけ残して、体はすでに噛みとられていた。—— 井上円了 妖怪学講義(井上円了 著・平野威馬雄 編) より引用地図で位置を見る
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
井上円了 妖怪学講義(井上円了 著・平野威馬雄 編)
『井上円了 妖怪学講義』は、明治期に哲学館で講じられた井上円了の『妖怪学講義』から要所を選び、平野威馬雄が現代の文章に改めて編んだ抄録である。狐憑きや化物屋敷、怪火、幽霊、コックリなどを題材に、円了が古書から抜き出した記事、各地から寄せられた報告、円了自身の現地での調べを収める。原著の八部門のうち理学・心理学・宗教学・雑の四部門を章に立て、序で研究の経緯と分類を、結びで編者の見方を述べる。