月夜の六本杉に輿で集う天狗たち
どんな伝承か
太平記の一節で、天狗が輿に乗って現れ、空に大勢集まって座についた例として引かれる。夜も更けて月が明るく冴えたころ、愛宕山や比叡山の方角から、四方輿に乗った者たちが空に集まり、六本杉を目指して並んで座った。しばらくして空に引き回した幕が風でさっと吹き上がると、座にいる者の姿が見えた。香染の衣に袈裟をかけ、目は日月のように光り、嘴は長く鳶のようで、水晶の数珠を爪繰っていたという。
原典より
夜痛く深く月清明たるを見れば愛宕の山、比叡の嶽の方より四方輿に乗りけるもの、虚空に集りて此六本杉を指して並居たる。—— 動物妖怪譚(日野巌・日野巌・動物妖怪譚・1926年(大正15年)) より引用地図で位置を見る
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
動物妖怪譚(日野巌・日野巌・動物妖怪譚・1926年(大正15年))
『動物妖怪譚』は、日野巌が大正六年に筆を起こし、大正十一年の跋と大正十五年の再記を添えて著した伝説の動物の研究書である。鬼・天狗・河童・人魚・雪女・龍・雷獣・狐・狸・獏・鯰・猫など二十六の項目を立て、記紀や万葉集から近世の随筆までの記事を原文の引用ごと示して起源と変遷をたどり、動物学の知識で正体を考える。總論で起原・歴史的変遷・分類などを論じ、結論では迷信から科学へ近づくことを説いて閉じる。