根岸の老狐に真似をさせられた烏
どんな伝承か
隣に住む人の話として『甲子夜話』が伝える。その人が幼少のころ、上野山下の根岸に住んでいた。当時、山から老狐が出てきてよく馴れ、後には食べ物を与えると屋内に入り、人のそばで食べるまでになった。この狐は人だけでなく鳥獣をも化かすと思われた。ある日、烏が来て樹の上にとまった。狐がその樹の周りを回ると烏は飛び去ることができなくなり、狐が樹の下で頭を揺らすと烏も樹上で頭を揺らす。何もかも狐のするとおりにした。血気あるものは、飛ぶもの走るものの類までも惑わすものと見えた、と結ばれている。
原典より
一日烏來て樹 に在り、かの狐其の樹を回れば烏飛び去るここ能はず、狐樹下に居て頭を搖かせば、鳥も樹上に在りて亦頭を搖す。—— 動物妖怪譚(日野巌・日野巌・動物妖怪譚・1926年(大正15年)) より引用地図で位置を見る
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
動物妖怪譚(日野巌・日野巌・動物妖怪譚・1926年(大正15年))
『動物妖怪譚』は、日野巌が大正六年に筆を起こし、大正十一年の跋と大正十五年の再記を添えて著した伝説の動物の研究書である。鬼・天狗・河童・人魚・雪女・龍・雷獣・狐・狸・獏・鯰・猫など二十六の項目を立て、記紀や万葉集から近世の随筆までの記事を原文の引用ごと示して起源と変遷をたどり、動物学の知識で正体を考える。總論で起原・歴史的変遷・分類などを論じ、結論では迷信から科学へ近づくことを説いて閉じる。