扇に歌を残した真崎稲荷の御出狐
どんな伝承か
隅田川のほとりに立つ真崎稲荷の社には、御出狐と呼ばれる狐が棲みついていた。茶屋の者が揚げ豆腐を手に、お出でお出でと呼ぶと、縁の下から姿を現して食べる。そんな日々が長く続いた。寛政四年ごろ、仙台の医師工藤某がこの狐を見ようと訪ねると、二十日ほど前に本国へ帰ったと聞かされる。本国はどこかと問えば、陸奥の松前だという。帰る前、狐は茶屋の娘に憑いて世話になった礼を述べ、暇乞いの形見を残すと言った。主人が扇を差し出すと、月は露に、露は草葉に宿るという一首を書き付けた。その筆跡は娘の手よりはるかに見事だったと伝わる。
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
動物妖怪譚(日野巌・日野巌・動物妖怪譚・1926年(大正15年))
『動物妖怪譚』は、日野巌が大正六年に筆を起こし、大正十一年の跋と大正十五年の再記を添えて著した伝説の動物の研究書である。鬼・天狗・河童・人魚・雪女・龍・雷獣・狐・狸・獏・鯰・猫など二十六の項目を立て、記紀や万葉集から近世の随筆までの記事を原文の引用ごと示して起源と変遷をたどり、動物学の知識で正体を考える。總論で起原・歴史的変遷・分類などを論じ、結論では迷信から科学へ近づくことを説いて閉じる。