玉を返した僧正の臨終に親族を呼んだ狐
どんな伝承か
雲根志によれば、近江の三門竹林院の僧正が泉水のほとりで遊ぶ狐たちを眺めていると、鶏の卵のような石をたいそう大事にしている様子だった。若侍たちが後ろへ回って大声で脅すと、狐は玉を捨てて逃げた。拾った白い美しい石は、夜になると狐火そのままに光った。以来毎夜、居間の戸をたたいて玉を返してくれと泣く声がするので、僧正は渋る侍を叱って玉を取り上げ、老人の姿の者に手渡した。七、八年後、八十余歳の僧正が病に伏すと、生国奥州白河の弟や親族が寺からの使者に呼ばれたと駆けつけた。寺は使いなど出しておらず、名残を惜しんだ翌日僧正は亡くなった。玉を返した恩に狐が報いたのだという。
原典より
夜に入りて是れを見れば其の光まさしく狐火なり。—— 動物妖怪譚(日野巌・日野巌・動物妖怪譚・1926年(大正15年)) より引用地図で位置を見る
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
動物妖怪譚(日野巌・日野巌・動物妖怪譚・1926年(大正15年))
『動物妖怪譚』は、日野巌が大正六年に筆を起こし、大正十一年の跋と大正十五年の再記を添えて著した伝説の動物の研究書である。鬼・天狗・河童・人魚・雪女・龍・雷獣・狐・狸・獏・鯰・猫など二十六の項目を立て、記紀や万葉集から近世の随筆までの記事を原文の引用ごと示して起源と変遷をたどり、動物学の知識で正体を考える。總論で起原・歴史的変遷・分類などを論じ、結論では迷信から科学へ近づくことを説いて閉じる。