焼け石を食わされたヤマチチの力くらべ
どんな伝承か
高知の山あいでは、ヤマチチをヤマジイとも呼ぶ。幡多郡大正村ではその名で語り、大声で叫べば山じゅうの木の葉が振り落とされる、姿は人によく似ていると伝える。同じ郡の十川村広瀬では白髪の老爺の姿で現れるという。高岡郡の別府村沢渡には、こんな話が残っている。昔、岸下佐衛門という狩人が獲物のないまま岩陰で焚火にあたっていると、地響きを立ててヤマチチが現れ、餅をねだった。翌日、佐衛門は河原の石を焼いて待ち受け、大声比べを挑まれると鉄砲を相手の耳もとで撃ち放ってみせ、続けて焼け石を口へ投げ入れた。大やけどを負って逃げたヤマチチは、翌晩、蜘蛛に化けて炉の自在鉤を伝い下りてきたが、佐衛門は団扇と箒で火のなかへ払い落としたという。
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
河童・天狗・妖怪――民俗随筆(武田静澄・武田静澄・民俗随筆・1956年(昭和31年))
『河童・天狗・妖怪――民俗随筆』は、武田静澄が昭和三十一年に著した民俗随筆である。天狗と神かくし、河童、座敷わらし、山の神と山の妖怪、狐狸とつきもの、水辺や海の亡霊、死霊と御霊などをめぐる伝承を、『今昔物語』などの古典の説話と各地の民俗の事例から集めて語る。短い見出しを立てた小文を連ねる形をとり、神かくしにあう心理や幻覚、お化けの心理にも触れて、妖怪を信じる心のはたらきを考える。