祟りを恐れて入らぬ坂内のイセチ
どんな伝承か
山仕事をしてはならない神聖な山をイラズヤマという。奥美濃の揖斐郡坂内村にはイセチと呼ばれるイラズヤマがあり、見たところは木の茂るごく普通の山腹にすぎないが、村人は祟りを恐れて決してそこで作業をしない。こうした忌み山は各地にあり、長野県の南伊那地方ではトシヤマともケチャマともいい、足を踏み入れると怪我をするという。著者は、猫の額ほどの国にひしめいて土地の狭さを嘆きながら、自由であるべき山野にみずから不自由な禁制を設ける心理を、まことに不思議なものだと述べている。
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
河童・天狗・妖怪――民俗随筆(武田静澄・武田静澄・民俗随筆・1956年(昭和31年))
『河童・天狗・妖怪――民俗随筆』は、武田静澄が昭和三十一年に著した民俗随筆である。天狗と神かくし、河童、座敷わらし、山の神と山の妖怪、狐狸とつきもの、水辺や海の亡霊、死霊と御霊などをめぐる伝承を、『今昔物語』などの古典の説話と各地の民俗の事例から集めて語る。短い見出しを立てた小文を連ねる形をとり、神かくしにあう心理や幻覚、お化けの心理にも触れて、妖怪を信じる心のはたらきを考える。