褒めると子や蚕に禍するトリツキスジ
どんな伝承か
岐阜県の益田・加茂・恵那三郡の境の辺りでは、生霊が取り憑くとされるトリツキスジの俗信が今もかなり強く生きている。加茂郡の東白川・西白川・佐見などでは、多くの部落に一、二戸ずつそうした家があるらしい。いまは縁組以外では普通に付き合うが、以前は祝い事や見舞いに来るのも嫌い、挨拶に来ても戸口で押し返して家に入れなかった。生まれた子を見て「ああ可愛い」と言われるとその子は死に、飼っている蚕を「よくできた」と褒められると蚕が悪くなると信じられていた。語られる実例はみな女ばかりで、筋は女から女へ伝わるとみられている。
原典より
生まれた子の所へこの筋の者が見舞に来て、「ああ可愛い」といえば、それでその子は死ぬと信じられ、蚕を飼っているのを見て、「よくできた」と褒められると、それで蚕が悪くなると思われていた。—— 日本の憑きもの――俗信は今も生きている(石塚尊俊・1959年(昭和34年)) より引用地図で位置を見る
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
日本の憑きもの――俗信は今も生きている(石塚尊俊・1959年(昭和34年))
『日本の憑きもの――俗信は今も生きている』は、石塚尊俊が昭和三十四年に著した研究書である。狐・犬神・蛇などの動物霊が人に憑くという俗信と、それを操るとされる家筋について、全国の伝承と近世以来の文書を集めて論じる。出雲・隠岐・豊後・土佐では筋の家の割合や縁組の偏りを調べ、憑きもの落としの行法や家の神とのつながりまでを七章で追っている。