踊りの誘いを断った寺の猫
どんな伝承か
天和三年の夏、芝の清養院の住持が痢病を患っていた。ある晩、厠に立つと裏の切戸を叩く者がある。返事をせずに居間をうかがうと、七、八年飼っている猫が火桶から下り、外にいた大猫を招き入れた。二匹は火桶で温まりながら、今夜は納屋町で踊りがあるから迎えに来たと語り合う。寺の猫は和尚が病で寂しかろうから今夜は行けぬと断り、手拭も病人に使うので貸せぬと答えた。息を殺して聞いていた住持は、のちに猫の頭を撫でて行ってよいと告げる。猫はうなだれて出たきり、二度と戻らなかった。
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
民俗怪異篇(磯清・磯清・民俗怪異)
『民俗怪異篇』は、磯清が著した民間の怪異をめぐる随筆集である。馬を襲う魔物ギバとその禁厭、阿波の首切れ馬「夜行さん」、姫路城の刑部姫や猪苗代城の亀姫などの城の怪、化け猫、灯火による占い、秩父三峰の狼の信仰と狼の怪、怪談を題材とする落語を取りあげ、各地の言い伝えや古い記録を引きながら語る。序に続いて「馬の災と馬の怪」「城の主」「猫」「灯の占」「狼の噂」「落語に存在する怪談」の六篇を置き、それぞれを小見出しの短い話に分ける。