片腕を残した一夜彫りの観音
どんな伝承か
弘法大師が修行のため諸国を巡り、行く先々で石に観音の尊像を刻んだ。それはいずれも一夜のうちに仕上げる仕事だった。若狭を巡ったとき三方に宿をとり、山の中腹に清水が流れて木々の青々と茂る美しい場所を見つけ、ここに観音を刻もうと思い立った。その夜、明朝の一番鶏が鳴くまでに彫り上げると仏に誓って石に向かったが、夜が明けかかり、観音の片腕を残したところで一番鶏が鳴いた。まもなく大師は姿を消してしまった。のちに観音は、自分は手が一本しかないから、皆の手の病ならどんなものでも治してやると告げ、村人は御堂を建てて祀ったという。
原典より
<高木 「道明寺」 柳田―「爪切地蔵」>昔、弘法大師が修行のため諸国を廻り歩いて、諸所方々で石に観音の尊像を刻まれた。—— 日本伝説大系 第6巻(日本伝説大系編集委員会・日本伝説大系(みずうみ書房)) より引用地図で位置を見る
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
日本伝説大系 第6巻(日本伝説大系編集委員会・日本伝説大系(みずうみ書房))
『日本伝説大系 第6巻』は、富山・石川・福井の北陸三県の伝説を集めた伝説集成の一巻である。神々の国争い、弘法大師や義経の遍歴、片目の魚、猿神や化物の退治など、伝承地を示した話を掲げ、県別の類話と古記録の文献記事を添える。巻末に福田晃の解説「主人公にたどる伝承世界」と、県ごとに近世の地誌から市町村史・民話集までを並べた使用資料一覧を置く。