牛淵の火の玉と空になった魚籠
どんな伝承か
豊川を川船が行き来していたころの話である。乗本の牛淵で、仕事を終えた船乗りが網を打って魚を捕っていた。よく捕れる日で、一投ごとに魚が掛かる。家中の者を喜ばせてやろうと打ち続けていると、にわかに水面が明るくなった。見上げれば岸の大きな松の梢に火の玉が光り、松そのものが倒れんばかりに揺れている。船乗りは肝をつぶして岩陰に隠れ、一心に念仏を唱えたが、震えが止まらず家へ逃げ帰った。網はぼろぼろに裂け、いっぱいだったはずの魚籠は空になっていた。最初の一尾を岩の上に供えていればと、男は悔やんだという。
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
日本伝説大系 第7巻(日本伝説大系編集委員会・日本伝説大系(みずうみ書房))
『日本伝説大系 第7巻』は、愛知・静岡・岐阜・長野の四県の伝説を集めた伝説資料集の一巻である。笠寺観音や日本武尊から天狗・山姥・八百比丘尼・夜叉ヶ池、石や池や塚の由来、白米城・一夜山まで九十七の項目を立て、口承を中心とする伝承を収める。各項目は伝承地を明記した例話を冒頭に置き、『日本伝説名彙』などの対応する題名を添えたうえで、〔類話〕〔参考〕〔文献〕を続けて近世以前の記録の原文まで示す。