笛に誘われ消えた若者たち
どんな伝承か
見沼がまだ広い湖沼だったころ、大砂土から与野のあたりにかけて、日の暮れどきに笛を鳴らしながら歩く美女が現れた。その音に引かれた村の若者は次々と姿を消し、誰も戻らなかった。村人は寄合を開き、沼の主が人身御供を取るのだろうと考えて岸に塔を建て供養した。今も大和田のあたりに立つ塔がそれだという。話は都にも届き、正体を見届けに下った武士が女に斬りつけると雷を伴う暴風雨が襲い、朝には竹の笛だけが残っていた。笛は大和田の鷲神社とも中川の氷川神社とも伝わる社に納められたが、のちに訪れた老女がこれを吹き鳴らし、笛もろとも消えたという。
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
日本伝説大系 第5巻(日本伝説大系編集委員会・日本伝説大系(みずうみ書房))
『日本伝説大系 第5巻』は、叢書「日本伝説大系」の一巻をなす伝説資料集である。埼玉・千葉・東京・神奈川・山梨の伝説を扱い、二つの太陽、蹴裂明神、ダイダラボッチ、平将門、源頼朝、豪徳寺の招き猫、黒塚、山の背競べ、親捨てなどの話ごとに、口承を重んじて選んだ例話を掲げる。各項は例話に〔類話〕〔文献〕〔参考〕を添え、類話は伝承地ごとに梗概で示し、文献は近世以後の史料を原文で抄出し、柳田・高木の分類による話型名を併記する。