旅僧が授けた山居の弘法大師の井戸
どんな伝承か
山居の集落は水にひどく不便で、桶一杯を汲むのに半日もかかるありさまだった。ある夏の日、杖をつき撞木を持ち、胸に鉦鼓を掛けた旅の僧が歩いてきて、貧しい農家に立ち寄って水を乞うた。藁を叩いていた老婆は、遠いのをいとわず気前よく水を運んで差し上げた。僧が土地の不便を尋ね、ありのままを聞くと、井戸を授けようと言って杖を地に突き立てた。すると何もなかった地面から清らかな水が湧き出した。集まった人々は、その僧が弘法大師であったと知り、弘法大師の井戸と名づけて長く恩を語り継いだという。
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
日本伝説大系 第5巻(日本伝説大系編集委員会・日本伝説大系(みずうみ書房))
『日本伝説大系 第5巻』は、叢書「日本伝説大系」の一巻をなす伝説資料集である。埼玉・千葉・東京・神奈川・山梨の伝説を扱い、二つの太陽、蹴裂明神、ダイダラボッチ、平将門、源頼朝、豪徳寺の招き猫、黒塚、山の背競べ、親捨てなどの話ごとに、口承を重んじて選んだ例話を掲げる。各項は例話に〔類話〕〔文献〕〔参考〕を添え、類話は伝承地ごとに梗概で示し、文献は近世以後の史料を原文で抄出し、柳田・高木の分類による話型名を併記する。